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最高裁判所第二小法廷 昭和51年(行ツ)57号 判決 1976年10月08日

上告人 青森県選挙管理委員会

右代表者委員長 佐野久雄

右訴訟代理人弁護士 萩原博司

右補助参加人 木村勇造

右訴訟代理人弁護士 堀家嘉郎

被上告人 太田良吉

被上告人 神重三

右両名訴訟代理人弁護士 安田忠

主文

原判決を棄却する。

被上告人らの請求を棄却する。

訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。

理由

上告代理人萩原博司の上告理由第一点ないし第四点及び上告補助参加代理人堀家嘉郎の上告理由第一点、第二点について

一  使者による不在者投票用紙等の交付請求と右使者と称する者が真実の使者であることの確認方法

公職選挙法施行令(昭和四九年政令第三九四号による改正前のもの。以下「令」という。)五〇条一項は、公職選挙法(昭和四九年法律第七二号による改正前のもの。以下「法」という。)四九条に掲げる不在者投票事由があって選挙の当日みずから投票所に行って投票をすることができない選挙人は、不在者投票をするため、選挙の期日の前日までに、その登録されている選挙人名簿の属する市町村(以下「登録市町村」という。)の選挙管理委員会の委員長に対して、直接に、又は郵便をもって、投票用紙及び不在者投票用封筒(以下「不在者投票用紙等」という。)の交付を請求することができるものとしているが、右の選挙人が使者によって不在者投票用紙等の交付を請求することができるかどうかについては、法及び令は直接定めるところがない。しかしながら、なるべく多くの選挙人に投票の機会を与えようとしている不在者投票制度の趣旨及び令五〇条一項が右のように郵便による不在者投票用紙等の交付請求を認めていることにかんがみれば、使者による不在者投票用紙等の交付請求も許されると解するのが相当である。

ところで、選挙人は、不在者投票用紙等の交付を請求する場合には、不在者投票事由を申し立て、かつ、右の申立てが真正であることを誓う旨の宣誓書をあわせて提出することを要し(令五二条)、右の請求を受けた登録市町村の選挙管理委員会の委員長は、選挙人名簿又はその抄本と対照して請求をした選挙人が選挙人名簿に登録されているかどうかを確認するとともに、不在者投票事由の存否を審査しなければならないのであるが、(令五三条一項)、右の請求が使者によるものである場合には、不在者投票用紙等が選挙人に確実に交付されることを確保し、もって不在者投票につき不正が行われることを防止するために、右使者と称する者が真実の使者であるかどうか、換言すれば、右請求が選挙人本人の意思に基づくものであるかどうかをもあわせて確認すること(以下「使者の確認」という。)を要するものというべきである。しかしながら、不在者投票用紙等の交付請求が郵便によってされた場合には、当該請求が真実選挙人本人からされたものであるかどうかは、郵送されてきた請求書、宣誓書等の書面によって確認するほかなく、法はそれをもって足れりとしていること、また、選挙人が直接右の請求をしてきた場合であっても、その請求者が果して選挙人本人であるかどうかの確認は、前述のとおり選挙人名簿又はその抄本との対照によってされるにすぎないことに照らして考えれば、使者の確認は、その使者と称する者の選挙人何某の使者である旨の申立てとその者が本人の不在者投票事由が存することについての宣誓書その他の書面(例えば、本人の依頼状、不在者投票用紙等交付請求書等)を所持する事実等によってすれば足り、真実の使者であることを疑うに足りる特段の事情のない限り、それ以上に使者と称する者に対しその者と本人との関係、本人から依頼を受けたいきさつ等の具体的事情を立ち入って聴取するなどのことは必ずしも必要でないというべきである。

これを本件についてみるに、原判決は、昭和四八年三月八日執行の青森県五所川原市長選挙(以下「本件選挙」という。)において、五所川原市選挙管理委員会(以下「市選管」という。)は、不在者投票用紙等の交付請求が使者によってされたものについて、宣誓書等の書類さえ整っていれば、使者と称する者に対し選挙人本人からいつ、どのようにして依頼を受けたのかを個々具体的に確認することなく、右請求を受理していたとの事実を確定したうえ、右受理手続は、使者の確認に欠けるところがあったといわねばならないと判断している。しかしながら、前段説示の点に照らして考えれば、他に真実の使者であることを疑うに足りる特段の事情のない限り、市選管の右受理手続には使者の確認においても欠けるところはないと解するのが相当である。そこで、右特段の事情の有無について案するに、原判決によれば、本件使者による不在者投票用紙等の交付請求中には、選挙人の使者と称する者が一人で複数の選挙人の不在者投票用紙等の交付を一括して請求した事例が多数あり、なかには一人で一度に四〇〇人ないし五〇〇人分の不在者投票用紙等の交付を請求した事例も二件あったというのである。選挙人の使者として不在者投票用紙等の交付請求をする者は、必ずしも一人の選挙人の使者にしかなれないものではなく、同時に複数の選挙人の使者となることを許されないわけではないけれども、一人の者が右のように一度に多数の選挙人の使者となることは、一般的にいって極めて異常なことがらに属するから、右二件については、前示真実の使者であることを疑うに足りる特段の事情があるものというべきである。しかし、その余の使者による不在者投票用紙等の交付請求については、前記原審認定の事実その他本件にあらわれた資料からはいまだ右特段の事情の存在を肯定するに足りない。してみれば、本件使者による不在者投票用紙等の交付請求の受理手続は、一人で一度に四〇〇人ないし五〇〇人の選挙人の使者として不在者投票用紙等の交付請求をしてきた右二件については使者の確認に欠けるところがあったと解するのが相当であるが、その余については右のような瑕疵があるものということはできない。それゆえ、本件使者による不在者投票用紙等の交付請求の受理手続において使者の確認に欠けるところがあったとする原審の前示判断は、右の意見に関する限り結局正当であるが、その余については失当であり、法律の解釈適用を誤った違法があるといわねばならない。

二  不在者投票用紙等の一括送付の適否

原審は、市選管が、不在者投票用紙等をその交付を請求した選挙人に対し郵便をもって送付するにあたって、右不在者投票用紙等を数人分ずつ取りまとめてそのうちの一人あてに一括して送付した事実を確定したうえ、右のような一括送付は、令五三条一項一号に違反するものであると判断しているが、原審の右判断は、正当として是認することができる。すなわち、令五三条一項一号は、選挙管理委員会の委員長が令五〇条一項の規定によって交付の請求を受けた不在者投票用紙等を右請求をした選挙人に交付しようとする場合には、選挙人に直接に交付かるか又は郵便をもって発送すべきものと定めているが、不在者投票用紙等の交付方法を右のように直接交付と郵便による発送との二つに限定している令五三条一項一号の趣旨は、不在者投票用紙等がその交付を請求した選挙人に確実に交付されることを確保しようとするにある。したがって、右以外の方法による不在者投票用紙等の交付が許されないのはもちろん、右にいう郵便による発送も、通常用いられる郵便による発送の方法、すなわち、選挙人各人に対して個別に送付する方法を意味し、本件においてとられたような一括送付の方法は右規定の予定しないところであると解するのが相当である。このことは、不在者投票用紙等の一括送付を受けた選挙人が、これを他の選挙人に確実に伝達するとの保障が必ずしもなく、故意又は過失により右の伝達を怠り又はこれを遅滞し、よって、当該選挙人をして不在者投票をする機会を失わしめ、あるいは、その不在者投票用紙等を流用して不正な不在者投票をするおそれのあることにかんがみれば、容易に首肯しうるところである。それゆえ、市選管が不在者投票用紙等の選挙人への郵送交付にあたって前述のような一括送付の方法によったことは、令五三条一項一号に違反した違法があるというべきであり、これと同旨の原審の前示判断は正当である。

三  本件選挙の効力

本件選挙には、右にみてきたとおり、使者による不在者投票用紙等の交付請求の受理手続に使者の確認を欠いた違法があり、また、不在者投票用紙等の交付手続に郵便による一括送付をした違法があるが、法二〇五条一項は、選挙が無効とされるためには、選挙規程の違反があることのほか、その違法が「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある」ことを必要としている。

そこで検討するに、右二点における選挙規定の違反は、いまだ本件選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるものということはできない。すなわち、不在者投票用紙等の交付請求が使者によってされた場合に前記のような確認を要するのも、また、不在者投票用紙等を選挙人に郵便をもって発送するにあたって、個別送付が要求され、一括送付をすることが違法とされるゆえんも、要するに、不在者投票用紙等が選挙人本人に確実に交付されることを確保し、もって不在者投票につき妨害又は不正が行われることを防止しようとするにある。しかし、使者の確認に欠ける違法があり、また、不在者投票用紙等を一括送付した違法があっても、必ずしも常に不在者投票用紙等の選挙人への交付が妨げられ、不在者投票につき妨害又は不正が行われるわけではなく、使者による不在者投票用紙等の交付請求の受理手続及び不在者投票用紙等の選挙人への交付手続に右のような違法があっても、なお不在者投票用紙等が選挙人本人に交付される場合が少なくないのであって、そのような場合には、右の違法は、選挙の結果になんら異動を及ぼすものではないと解するのが相当である。これを本件についてみるに、原判決によれば、(1)市選管は、一人の者が複数の選挙人の使者として一括して交付を請求してきた不在者投票用紙等については、これを右使者と称する者に対して直接に交付したのではなく、選挙人本人に郵便をもって発送したこと、(2)右郵便をもって発送するにあたって、市選管は、不在者投票用紙等を選挙人数人分ずつに取りまとめ、それらの者の氏名、住所を記入した送付書を添え、無作為的にそのうちの一人を宛先にして一括して送付したこと、(3)右一括送付にかかる不在者投票用紙等は三六九件九九二人分にのぼるが、そのうち八三一人分については現実に不在者投票が行われたこと、(4)右不在者投票用紙等の一括送付によって不在者投票につき妨害又は不正が行われたことをいまだ認めるには足りないこと、以上の事実が認定されており、右の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし是認することができる。右の事実関係のもとにおいては、前示使者による不在者投票用紙等の交付請求の受理にあたって使者の確認を欠いた違法ないし不在者投票用紙等の選挙人への交付にあたって一括送付の方法によった違法のある票数は九九二票であるというべきところ、そのうち少なくとも現実に不在者投票が行われた八三一票については、選挙人に不在者投票用紙等の交付があり、かつ、それらの不在者投票につき不正はなかったものと解するのが相当であり、結局、不在者投票用紙等が選挙人に交付されたかどうか疑いが残るのは、差引き一六一票にすぎないものというべきである。そうとすれば、本件選挙における当選者と次点者との得票差は三六二票であるというのであるから、前記選挙規定の違反はいまだ本件選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるとはいえない(なお、原判決摘示の毘沙門第一投票所における不在者投票用封筒違法焼却の事実は、右結論を左右するものではない。)。

それゆえ、本件選挙はいまだ無効とすべきものではなく、これと同旨の上告委員会の裁決は正当である。原審が本件選挙を無効としたのは法律の解釈適用を誤ったものであり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。したがって、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、被上告人らの本訴請求は棄却されるべきものである。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条一号、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田 豊 裁判官 木林 譲 裁判官 要本一夫)

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